Jリーグは、先月明るみに出た愛媛FCの粉飾決算についての、制裁を発表しました。予想より軽い処分に驚きましたが、重要なのは今後の再発防止です。
粉飾に対する罰則は、法律とJリーグ規約に従って課されます
2015年2月23日、Jリーグはプレスリリースとして、愛媛FCの粉飾決算についての制裁を発表しました。
(参考:Jリーグ公式サイト“不適切な会計処理に対し 愛媛FCに制裁を決定”)
制裁内容は、
(1) けん責 (始末書をとり、将来を戒める)
(2) 制裁金300万円
この2点です。
今回の制裁は、Jリーグのルールである「Jリーグ規約」に違反したことによる制裁です。
当然のことですが、制裁が課されるのは、
まず、守らなければいけないルールがあって、それに違反した時です。
そして、制裁の内容も、事前にルールが決められていて、そのルールに従って決めなければいけません。
Jリーグのクラブが守らなければいけないのは、会社法を中心とした「法律」と、「Jリーグ規約」。
法律上の問題については、愛媛FCが上場していない会社であることから、会社法に基づく責任が中心で、
粉飾した決算書を信じて取引したことで、実害が発生した場合に、その埋め合わせをする損害賠償責任と、
赤字を黒字にしたことで、会社から余計にお金が流出してしまい(赤字なら支払う必要のない報酬を、役員に支払うなど)、会社の財務基盤を弱くした責任を問う、特別背任罪
の2点が主な内容になります。
(詳細については以前の記事でも触れています 参考:“愛媛FCの粉飾決算と罰則”)
今回、Jリーグから発表されたのは、Jリーグ規約に基づく制裁です。
そのため、制裁内容についてもJリーグ規約に従って決まることになるのですが、このJリーグ規約の制裁にはチェアマンの裁量が大きく関わるため、様々な憶測が飛び交うことになりました。
印象としては「予想より軽い処分」 ただ、「不当」とも言えません
Jリーグ規約によると、規約に違反した場合の制裁には2種類あります。
1つは、「チェアマンによる制裁」、もう1つは、「制裁金」です。
「制裁金」についてはシンプルで、「このルールに違反した場合はこの範囲で制裁金を支払いなさい」という決め方をしています。
粉飾決算の場合は、第23条の「Jクラブの健全経営」第3項、
⑶ Jクラブは、前項の書類に虚偽の記載をしてはならない
(注:「前項の書類」は財政状態に関わる決算書などの書類を含んでいます)
に違反することになり、
制裁金のルールを定める第153条の第2項で、
② 第23 条〔Jクラブの健全経営〕第3項に違反した場合
となっていることから、153条に従って「1,000 万円以下の制裁金」が課されることになります。
一方で、「チェアマンによる制裁」は幅が広く、
(出典:「Jリーグ規約」より)
これだけの種類があり、
「生かすも殺すもチェアマン次第」という、ある意味怖いルールになっていますから、様々な可能性が取り沙汰されてきました。
特に、今回は、法律違反に該当する行為でしたので、その重大性を考慮して、「⑥勝ち点減」以降の重い処分があるだろうと考えられましたが、
1.第3者による調査で、組織ぐるみで粉飾を行ったわけではないこと
2.クラブの業務量に対して、十分な人員を割くだけの余裕がないこと
などを考慮して、処分としては相当軽い「①けん責」と制裁金の支払いに決まったようです。
最終的にはチェアマンの判断に委ねられているのが、「Jリーグ規約」のルールですから、ルールに従った決定である以上、「不当」ということはできません。
ですが、今回の決定に一般のファンが釈然としていないのもまた事実。
その原因の一つは、制裁の幅が広い割に、決定の過程や基準が不明瞭(裁量に任されている)であることにあると思います。
「制裁内容」と「規約違反」の対応関係をもう少し細かく決めていれば、不要な憶測を呼ぶこともなく、違和感を持つ方もより少なくなるでしょう。
そうしておけば、制裁内容の合理性についての議論がしやすいので、将来的に社会の認識が変化して、違反の事実に制裁が釣り合わなくなった際にも、タイムリーな規約の変更が可能になるのではないでしょうか。
チェアマンによる制裁についてはもう少し議論を重ねて、より分かりやすいルールに改善することをのぞみます。
これで、一応の決着を見ることになりましたが、本当に重要なのは、再発防止です。
少ない労力で決算を組める体制 & 会計監査を役立てること
チェアマンが今回の制裁を決める際に考慮したことの一つとして、「会社の規模の小ささ」を挙げていました。
予算の小さい会社なので、十分な人員を経理に割くことができないということです。
ただ、これを言い始めると今回のようなケースは今後も許容されることになってしまいます。
確かに、上場企業のように経理のスペシャリストを雇うことは難しいかもしれません。
ですが、たとえ、従業員が1名しかいない小さな会社でも、株式会社として登記しているなら、会社法に従って、正しい会計記録に基づいて決算書をつくらなければいけないのは同じです。
会社の規模を言い訳にして、正しい決算書が作れないことを正当化することはできません。
ですので、まずは、少ない労力で決算が組めるような体制を整えることが重要です。
少ない労力で決算を組める体制を作る
愛媛FCは小さい会社ですから、人を雇うことも本当に大変なことです。
それでも決算書を作らなければいけないのですから、少人数かつ、少ない労力で、決算書をつくれる体勢を整えるべきです。
経理には細かい入力作業が必要ですが、今なら安く外注することもできますし、Excelなどを使えば自力で効率よく入力することも可能です。
そうして日常の作業を効率化した上で、経理を担当される方には、大きな誤りが無いかどうかを確認するためのポイントを学んで、大きな間違いはない決算書を作り上げることを考えるのがいいでしょう。
マネジメントを行う方も、日常業務でのチェックは難しいかもしれませんから、せめて月次のチェックはしっかり行い、これも大きな間違いが無いことを確認しながら、年度末の決算を行えるようにしなければいけません。
マネジメントを行う方も、「経理は専門ではない」「他の業務が忙しい」という理由で逃げることはできません。
こまかい会計処理は分からなくても、大きな数字の間違いはチェックできるようになっておく必要があります。
人を雇えないなら、ご自身でできるようになれば何ら問題はありません。
専門家のアドバイスを参考にしながら、何とかチェック体制を整えていただきたいと思います。
内部の体制が整ったら、外部の力も借ります。
会計監査の活用です。
会計監査の指導機能を依頼する
Jリーグのクラブは、決算書について公認会計士の監査を受けるのがルールです。
お金はかかっても、必ず全てのクラブが受けることになります。
会計監査は、会社が作った決算書が正しいかどうかを判断して意見を表明するのが仕事。
形としては、
・決算書を作る=会社の仕事
・決算書が正しいかを判断する=会計士の仕事
と分かれているのですが、会計士は決算書について、
「この決算書に大きな誤りはありません」
「この決算書には誤りがあります」
と報告するだけが仕事ではありません。
誤りを見つけた時に、正しい決算書になるように、誤りを会社にお知らせすることも大事な仕事。
この役割を、「指導機能」と言うのですが、一般に、小さな会社では経理の体勢が弱いところも、ありますので、そのような会社で監査する場合は、この「指導機能」を意識して仕事をすることが多いです。
そこで、会計監査を受ける際には、「会計士にケチをつけられたくない」という気持ちではなく、「誤りがあるかもしれないので、みつけたらどんどん指摘して下さいね」と、積極的に会計監査を活用することを考えます。
ただし、あくまでも正しい決算書を作る責任は会社にありますので、「誤りがあってもいいや」というつもりで仕事をしてはいけません。
「少ない労力で最大限正しい決算書を作るけれど、それでも、間違いがあるかもしれないから、指摘して下さいね」という姿勢です。
会社側から積極的に依頼すれば、会計士もそのつもりで監査しますから、会計士はやっかいな存在ではなく、会社側にとっても大きな味方になってくれます。
自分たちでもベストを尽くしつつ、外部の力も借りることで、小さいながらも有効なチェック体制を整えることができます。
まとめ
愛媛FCの粉飾決算に対する制裁は予想よりも軽いものでした。
ですが、もっとも厳しいのは信頼を失ったことです。
再発防止策を実のあるものにして、もう一度、信頼回復の道を歩まなければいけません。
<おまけ>
同じ愛媛のFC今治では、将来の明るいビジョンと、それを支える大きなスポンサーのサポートが始まることが発表されました。
このような明るい話題は本当に嬉しいです。
両クラブとも切磋琢磨しながら、大きく発展してもらいたいと切に願っています。