日本のプロサッカーリーグの2部、J2リーグは、6月6日に17節を終了。未だ、全体の40%しか消化していない段階ですが、既に2つのクラブの監督が解任されました。これは、かなり早いタイミングでの解任であり、J2が新しい時代に入ったことを象徴する出来事です。
降格制度の導入J2を変える
日本のプロサッカーリーグであるJリーグは、J1、J2、J3の3つのリーグで形成され、J1を頂点とするピラミッドになっています。
かつては、J1、J2の2つのリーグしかなかったため、J2から降格するクラブはなかったのですが、2012年からはJFLと、昨年からはJ3との間で、昇格・降格の制度が導入されることになり、J2のクラブにも、降格するクラブが出てくることになりました。
仮に、J3に降格したとしても、クラブがなくなるわけではありませんし、「また昇格すれば良いだけ」と言う考えもあるでしょう。
ですが、現実はそう簡単ではありません。
下のリーグに降格してしまうと、Jリーグからの分配金が大きく減額されますし、メディアへの露出が少なく、クラブの広告価値が下がることから、広告収入も減少します。
さらに、対戦するクラブの人気も、J2とJ3では大きく違いますから(たとえば、今年ならJ2にセレッソ大阪のような人気クラブが所属することもありますが、J3にはそこまでのクラブはありません)、観客動員にもかなりの差が出て、入場料収入も確実に少なくなります。
このように、降格によって収入が大幅に減少することから、クラブの予算もそれに合わせて削減せざるを得なくなります。
その結果、選手に支払えるサラリーが削られることになりますから、前年と同じだけの戦力を維持することができないのです。
「それでも、去年までの余力で何とか」と、昨年まで上のリーグでやってきたという実績に希望を見出したくなりますが、1度降格したクラブは、なかなか昇格できないのが現状です。
J2から降格したクラブは、昨年までに、町田ゼルビア、ガイナーレ鳥取、カターレ富山の3クラブ。
今年もJ3に所属していますが、町田ゼルビアが3位、ガイナーレ鳥取が5位、カターレ富山が7位と、
2位までに入らなければ昇格の可能性がない、J3において、思うような成績を残せていないのです。
ここ数年で、降格によるダメージの大きさが、はっきりと分かってきた、J2リーグの各クラブは、降格に対する危機意識が強くなってきました。
その現れが、未だ、全日程の40%しか消化していないタイミングでの、監督解任であると考えています。
J2での監督の早期解任は、「J1昇格のため」だったのが、「J2残留のため」に変化
2009年から昨年までの監督解任のタイミングと、解任前後の勝ち点をまとめた資料です。
まず、注目していただきたいのが、解任のタイミングです。
赤枠で示した部分ですが、最後の行にある平均を見てみると、おおむね28節まで消化した後に解任に到っていることがわかります。
J2リーグは全体で42試合ありますから、3分の2を消化した時点で解任の判断をするのが、これまでの平均だったということです。
それに対して、2015年の監督解任のタイミングを見てみると、
第16節、第17節と、先述の通り、全体の40%しか消化していない早い時期に、解任を決断していることが分かります。
その一方で、従来でも、18節、19節と言った早期に解任を決断しているケースもあります。
(2012年の横浜FCは、3ゲームとイレギュラーなため対象から外しています)
この2つのケースは、ジェフユナイテッド市原・千葉、京都サンガF.C.によるもの。
両クラブは、他のJ2のクラブと比べて、圧倒的な予算規模を誇り、当然のようにJ1昇格を目標にしているクラブです。
解任の理由も、J1昇格を目標とするには成績が不十分だったことから、J1昇格の可能性を高めるために行う解任でした。
一方、2015年に早期に監督解任があったのは、
下位の2クラブです。
解任の目的が「J2残留のため」であることは明らかでしょう。
このように、早期解任の目的についてもこれまでとは異なっています。
つまり、
・解任のタイミングが、昨年までより大幅に早まった
・解任の目的に、J2残留が挙げられるようになった
この2点において、J2リーグの各クラブの意識の変化が見て取れます。
解任の判断は正しいのか
次に、解任後にクラブがどう変化するのか、勝ち点に着目して見てみることにします。
昨年までのデータで、解任前後の1試合あたりの勝ち点の変化を見てみました。
一番下の平均を見てみると、「0.233」とプラスになっていますので、解任による効果(勝ち点の上積み)はあると考えて良いでしょう。
その意味で、チームの状況が良くないときに、監督交代に踏み切ることには、一定の合理性があると言えます。
ただ、「チーム状態が良くない」という根拠が”順位”だけでは説得力がありません。
クラブによって予算規模が違いますので、予算規模に見合った順位かどうかで、チーム状態の善し悪しを判断するのが合理的です。
そこで、第17節までのリーグ戦の結果から、勝ち点1を獲得するために必要な、人件費の額を求めることで、予算規模にふさわしい順位にいるかどうかを見てみます。
なお、最新の財務資料が平成25年度と、かなり古いものになっていることを、ご承知おき下さい。
まず、最下位の大分については、勝ち点1を獲得するのに、4千6百万ほどかかっています。
これは、1位の大宮アルディージャ、2位のジュビロ磐田とならぶほどの金額を使っていることになりますから、最下位では、とても満足のいく成績とは言えません。
解任の判断も、やむを得ないでしょう。
一方、水戸ホーリーホックは、勝ち点1を獲得するのに、1千7百万円。
この金額は、全体の11番目で、丁度真ん中に当たります。
良い成績とも言えませんが、決して悪いとも言えません。
そもそも、水戸ホーリーホックの人件費予算は約2億3千万円で、全体の18番目。他のクラブの動向を考えると、今年の予算規模はもう少し下の可能性もあります。
と言うことは、当初から「J3降格もやむなし」という予算でシーズンに臨んでいるわけで、この成績で解任されることが必ずしも正しい判断とは言い切れません。
今回は、そんな、「どちらとも取れる」という状態での、解任の判断と言うことになります。
ここに、クラブ側の感じている危機感が、どれほど大きかったかを、うかがい知ることができます。
監督の解任には、解任する監督への違約金(その年の給料を支払います)と、新しい監督への給料の支払い、が発生するため、予算の少ないクラブにとっては大きな負担で、できればやりたくないことなのです。
それでも思い切って決断したと言うことは、「悠長に構えていたら手遅れになる」という危機感を持っていたからこそで、J2で生き残ることの難しさ、J3へ降格することのリスクの大きさを、知るからこその判断と言えるでしょう。
まとめ
J2では、早くも2人の監督が解任されました。
この解任は、これまでよりもかなり早いタイミングで行われたことと、J2残留を目的としていることに、特徴があります。
J2が年々難しいリーグになっていることを象徴しているような出来事です。
おまけ
勝ち点1をとるためにかかる人件費の表を見ていると、他にも解任の可能性があるクラブがいくつかあることが分かります。
今後、監督交代に踏み切るクラブがさらに出てきそうです。