松本山雅FCが苦しんでいます。昨年、J2リーグを2位の成績で終え、J1への昇格を果たした松本山雅FC。J1のファーストステージを残留圏内の15位で終え、順調に滑り出したかに見えましたが、直近のゲームで7連敗。あっという間に降格圏に足を踏み入れることになりました。この苦境を何とか乗り越えて残留を果たすために、J1に昇格したシーズンに残留した、スモールクラブの軌跡を追い、松本山雅FCの残留の可能性を考えます。
J1でのプロヴィンチャーレの戦いは、「炎上上等」くらいで丁度良い
Jリーグには、J1,J2,J3で合計52のクラブがありますが、クラブの規模には大きな違いがあります。
浦和レッズ: 三菱自動車工業
FC東京:東京ガス
サンフレッチェ広島:マツダ
ガンバ大阪 :Panasonic
川崎フロンターレ:富士通
横浜F・マリノス:日産自動車
鹿島アントラーズ:新日鉄住金
名古屋グランパス:トヨタ自動車
柏レイソル: 日立製作所
大宮アルディージャ:NTT東日本
ジュビロ磐田:ヤマハ発動機
ジェフユナイテッド千葉:JR東日本・古河電気工業
京都サンガF.C. :京セラ
この13クラブは、大きな会社が株主、もしくは、スポンサーとしてクラブに関わり、十分な資金を投入できる(可能性のある)大きなクラブ。
(厳密に区分することはできませんが、売上高が1兆円を超える企業によるサポートを受けているクラブは、相対的に大きなクラブと言えるでしょう)
それ以外のクラブは、小口の株主やスポンサーによって支えられる小さなクラブです。
フットボールの世界では、このような大きな株主やスポンサーを持たない、小さな地方クラブのことを「プロヴィンチャーレ」と言います。
クラブの強さは、予算の大きさで決まると言われていて、データでもそのことが明らかになっているので(特に長期のデータを見ると顕著です)、予算で圧倒的に不利な立場に立たされるプロヴィンチャーレは、弱者の立場での戦いを強いられることになります。
と言うことで、サンフレッチェ広島に6-0で敗れたゲームを見て、絶望的な気分になっている松本山雅FCのファン・サポーターの方がいるかもしれませんが(もちろん少数だと思います)、予算規模の違いを考えれば、そんなゲームもあって当然。
「34のゲームの中には、そんなこともある」と割り切って、「炎上上等」くらいの心構えで十分です(いつもそれだと困りますけどね)。
終わったことは、糧にすればいいだけですし、いまある勝ち点から残留に向けて何が必要かを考える方が楽しいですからね。
Jリーグも1999年に昇格・降格制度ができて、延べ41のクラブがJ1に昇格しています。
もちろん、その中には、小さなクラブもあり、昇格後キッチリ残留しているケースもあります。
過去にJ1で残留を勝ち取ったプロヴィンチャーレの戦いを参考に、これからの松本山雅FCの残留への道を考えましょう。
松本山雅FCの勝ち点は、過去残留に成功したプロヴィンチャーレの勝ち点の推移と近似している
「困ったことがあったら、頼れる先輩に聞け!」
と言うことで、昇格したシーズンに残留に成功した、小さなクラブ(プロヴィンチャーレ)が、どのような道のりを辿ってシーズンを終えたかを、データで見てみることにしましょう。
対象としたのは、2005年から2014年までの10年で、昇格したシーズンに残留したプロヴィンチャーレ。
ただし、先述した予算規模の大きな13クラブだけでなく、それに準じるクラブ(神戸やセレッソなど)も除外します。
そして、条件にあてはまったのが、
2006年 ヴァンフォーレ甲府
2009年 モンテディオ山形
2010年 ベガルタ仙台
2012年 サガン鳥栖
2013年 ヴァンフォーレ甲府
この5クラブ。
まずは、この5クラブについて、第1節から最終節(第34節)までの勝ち点の推移を見てみましょう。
勝ち点の推移
黄色で示された、2012年のサガン鳥栖は、最終的に5位でフィニッシュするという、素晴らしい成績を残しているので、逆に参考になりませんが、
それ以外のクラブは、かなり似通った勝ち点の推移であることが分かるのではないでしょうか。
(2012年のサガン鳥栖を除いたグラフ。非常に狭いレンジで収まっています)
これに、今年の松本山雅FCの勝ち点の推移を重ねてみましょう。
ちょっと分かりづらいですが、緑の線で示しているのが、松本山雅FCの勝ち点です。
残留に成功したクラブの勝ち点推移のレンジの中に、松本山雅FCの勝ち点のグラフも収まっているのがよく分かると思います。
また、注目していただきたいのが、このグラフの中に横軸と並行になっている箇所がいくつもあること。
つまり、残留を果たしているクラブでも、連敗は当たり前のように経験していると言うことです。
確かに、連敗は精神的にキツいですし、ないに越したことはないのですが、連敗しても残留できないわけではないので、とにかく気持ちを切らすことなく、次のゲームで全力を尽くすことが重要です。
(2013年のヴァンフォーレ甲府先輩は、8連敗してますからね。非常に心強い。)
次に、得点の推移を見てみます。
得点の推移
第1節から最終節(第34節)までの、得点の推移です。
(2012年のサガン鳥栖は除外しています)
これは興味深い結果ですね。
クラブのスタイルが色濃く反映されています。
最終節までの合計ですが、2006年のヴァンフォーレ甲府が42、2010年のベガルタ仙台が40、
それに対して、2009年のモンテディオ山形が32、2013年のヴァンフォーレ甲府が30と、
平均で10点もの開きがあります。
残留するクラブでも、これだけ違いがあると言うことで、
「プロヴィンチャーレだから、このスタイルでないと残留できない」
ということはなさそうです。
ここに、山雅の得点の推移を重ねてみると、
これも、きれいにレンジに入っていて、得点の少ないグループの間に入っています。
次に失点を見てみましょう。
失点の推移
失点の推移です。
これも興味深いデータです。
2006年のヴァンフォーレ甲府は64で、極端ですが、2010年のベガルタ仙台が46、
それに対して、2009年のモンテディオ山形が40、2013年のヴァンフォーレ甲府が39と、
こちらも、2つのグループに分かれます。
それぞれ、得点の推移で、得点が多い・少ない、で分かれたグループと一致しているので、こちらも、クラブのスタイルが反映された結果と言えるでしょう。
ここに、山雅の失点の推移を重ねてみると、
おっと、やや気になるはみ出し方をしていますが、これは丁度、前節で、サンフレッチェ広島に6-0で敗れたゲームを反映した結果です。
その前のゲームまでの推移を見てみると、失点の少ない2009年のモンテディオ山形、2013年のヴァンフォーレ甲府のグループのレンジに入っていることが分かります。
これを見ても山雅は、
「少ない得点を守り抜いて、勝ち点を獲得する」
というスタイルであることが、ハッキリ分かります。
ここまでの山雅は悪くない 残留のカギは、ブレずにスタイルを貫徹すること
このように見てみると、連敗はしているものの、松本山雅FCは残留に向けて着実に前進していると言えます。
なので、「(今までのところ)あまり心配する必要はない」ということです。
ただ、先ほど見たように、目標とするべき残留のスタイルは、
「少ない得点を守り抜く」
という、2009年のモンテディオ山形、2013年のヴァンフォーレ甲府のスタイルですから、
「得点が取れないことに悩みすぎない」
ということが大事です。
むしろ、得点に拘りすぎて、守備に影響が出ることのリスクを気にするべきでしょう。
ただし、守備だけをしていれば、何とかなるかというとそうでもありません。
前節のサンフレッチェ広島戦を見ていても思ったのですが、今の山雅は、守備を意識しすぎるが余り、相手の攻撃を素直に受けてしまっています。
その結果、守る時間が長くなりすぎて、耐えきれずに失点してしまうと。
J1のクラブの攻撃のクオリティは相当高いので、引いて守るだけでは、あっと言う間に守備が決壊してしまいます。
かといって、前線からプレッシングに行くかというと、それは絶対必要なことですが、90分間続けることは体力的にも精神的にも不可能ですから、それ以外の方法でも、相手の攻撃をいなす必要があります。
そのためには、逆説的なようですが、攻撃の時間を増やすことがポイントになるでしょう。
ゴールできるかどうかは、選手の質の問題なので、ゴール自体はなかなか増えないと思いますが、攻撃の時間や回数なら、工夫や意識によって改善する可能性が十分あります。
幸い、前線にはボールを収められるオビナ選手がいますので、オビナ選手にボールが入った後に、攻撃の時間を作れるような形、あるいは選手を入れることができれば、守備も改善していくように思います。
・自分たちのスタイルを最後まで貫くこと
・そのために、攻撃の時間と回数を増やすこと
ができれば、松本山雅FCの残留はグッと近くなるように思います。
まとめ
過去のデータと比較すると、松本山雅FCは残留に向けて着実に前進していると言えます。
このまま、チームのスタイルを貫くことで、さらにその可能性が高まるように思います。
おまけ
Excelセミナーで使う演習問題の見直しを続けています。
実務の現場で使うスキルを想定して、練習のための練習が含まれないように、中身を絞ることが目的です。
その分、解説を厚くすることでバランスをとらなければいけない所も出てくるのですが、その辺のさじ加減は、かなり悩みます。