世界のサッカークラブの売上をまとめた「デロイト・フットボール・マネー・リーグ2016」。
前回は前年との比較によって変化の大きかったクラブを取り上げたので、
今度は少し期間を長くして、ここ5年間の売上で変化の大きかったクラブを
見てみることにします。
レアル・マドリー、FCバルセロナのスペイン勢が1,2位を締めた「デロイト・フットボール・マネー・リーグ2016」
前回、「デロイト・フットボール・マネー・リーグ2016」をレビューして、
世界のフットボールクラブの売上上位20クラブを見ていきました。
結果は次の通り。
(出典:Deloitte Football Money League 2016)
レアル・マドリー、FCバルセロナのスペインの2強が1、2位を占めたほか、
アーセナル、リバプールといったプレミアリーグのクラブも大きく売上を伸ばしていました。
同じように売上を伸ばしたクラブでも、その原因がそれぞれに異なるのは、
非常に興味深いポイントでした。
前回の記事は、”前年の売上との比較”で2014-2015シーズンの売上を見ましたが、
今回は過去5年の売上の推移から、2つのクラブに注目します。
上位10クラブの、5年間の売上の推移
売上上位10クラブの5年間の売上推移も見てみます。
(出典:Deloitte Football Money League 2016)
きれいな右肩上がりのグラフになっているのが分かります。
その中でも目を引くのが、パリ・サンジェルマン。
2011-2012シーズン以降急激に売上を伸ばしています。
バリ・サンジェルマンは、クラブの買収を機に売上を伸ばす
パリ・サンジェルマンの売上増加にはハッキリした理由があります。
それは、クラブの買収。
2011年、パリ・サンジェルマンの経営権が、
カタール政府が運営する「Qatar Sports Investments」に移ったのですが、
これ以降、売上が約4倍に増えています。
「Qatar Sports Investments」は、カタールの現首長である
タミーム・ビン・ハマド・アール=サーニー氏が、
石油と天然ガスの販売によって得た資金を運用するために設立した、
カタール政府が所有する投資ファンドです。
経営権を取得して以降、このファンドからのお金が、
パリ・サンジェルマンに流入することになるのですが、
その名目が宣伝広告料で、売上に加えられているため
一気に売上が伸びたのでした。
このような、外資による買収によってクラブが大きくなるケースが
ここ最近増えてきていて、
プレミアリーグのチェルシーやマンチェスター・シティなども、
外資による買収後、短期間のうちに売上を伸ばしています。
上位20クラブの、5年間の売上の推移
次に上位11位から20位のクラブの、5年間の売上推移も見てみます。
(出典:Deloitte Football Money League 2016)
この中で大きく売上を伸ばしているのが日本代表の香川真司選手も所属する、
ボルシア・ドルトムントです。
ドルトムントの伸びはスポンサー収入の増加が原因
現在はブンデスリーガの強豪として、ヨーロッパでも名を馳せている、
ボルシア・ドルトムントですが、2000年代には、
破産寸前にまで追い込まれていました。
2000年代後半に、増資やスタジアムのネーミングライツの売却、
主力選手の売却などによって徐々に財務体質を改善。
チームもユルゲン・クロップ監督を招いて、若手へと切り替わった
メンバーが実力を発揮して成績も向上して今に到ります。
クラブが危機を脱して軌道に乗り始めた2010年以降、
売上がさらに上昇するわけですが、その原因はスポンサー収入の増加です。
昨シーズンについて言えば、ドルトムントの成績は良くなく、
一時は残留争いに巻き込まれるほど苦しんでいましたが、
それでも、スポンサー収入が増えたことで売上は増加しました。
ドルトムントは、スポンサーとの契約を戦略的に行っていて、
単にスポンサー料を支払ってもらうだけでなく、
スポンサー企業にクラブの株主になってもらうことで、
長期かつ多額のスポンサー契約を結ぶことに成功しています。
(この方法はバイエルン・ミュンヘンの手法と似ています)
ー2016/01/26 追記ー
J1リーグに所属する湘南ベルマーレが、2016年1月25日のリリースで
ユニフォームスポンサーの「三栄建築設計」が、クラブの株式を取得して
筆頭株主になることを発表しました。
日本でもドルトムントやバイエルン・ミュンヘンと同じ手法で
スポンサーとの結びつきを強くする試みを行うクラブが出てきていることは、
注目に値します。
ー2016/01/26 追記 ここまでー
売上の柱は、放映権、スポンサー、賞金それでも重視するのはスタジアムに来てもらうこと
前回の記事も含めて、「世界のサッカークラブの売上」の”今”を
見てきましたが、
その内訳を見てみると、放映権、スポンサー収入、賞金が
大きな割合を占めていることが分かりました
この点について、「デロイト・フットボール・マネー・リーグ」
には、興味深い記述があります。
The 19th edition of the Money League has seen matchday revenue fall to its lowest ratio of total revenue, less than a fifth. Despite this, it is clear that clubs are thinking about matchday as a source of revenue that they can increase
ーデロイト・フットボール・マネー・リーグでは、売上の比率の中で”スタジアムでの収入”(入場料収入、飲食での収入など)が最も小さくなったことが分かった。
にもかかわらず、各クラブは、今後売上を増やす可能性のあるものとして、”スタジアムでの収入”を位置づけていることは明かだ。ー
<中略>
And whilst broadcast and commercial increases have
usurped matchday revenue increases in absolute terms,
both are inherently reliant on a high quality, live matchday product.
ー放映権料とスポンサー料の増加は、スタジアムでの収入を圧迫しているが、放映権料とスポンサー料が増えるかどうかは、本質的にスタジアムで生み出される商品(ゲームの質やスタジアムの作り出す雰囲気など)にかかっているのだ。ー
つまり、これから売上を伸ばせるかどうかは、
「”スタジアム”に=”現場”にかかっている」
と言うことです。
その証明として、より多くの人にスタジアムに足を運んでもらい、そこで、質の高いゲームが見せるために、各クラブはスタジアムの
再開発を積極的に行っていることを指摘しています。
売上としては小さくなりましたが、それでも、
「サッカークラブの売上の源はスタジアムでありゲームである」
という共通の認識があると言うことでしょう。
この点は、スタジアム問題を抱えるJリーグのクラブにとっても、
示唆に富むレポートだと思いました。
Jリーグでは、
「『採算』を考えて新しいスタジアムをつくるかどうかを考える」
と言う話が出ますが、
レポートにある、
「『採算』を考えるなら、スタジアムを充実させるべき」
との考えとでは、発想が正反対ですし、
収益性を
「スタジアム単体」で考えるか、
「そこから派生する放映権料、スポンサー料も含めて」考えるか
という点でも異なっています。
まとめ
ヨーロッパの各クラブは、これからさらに売上を伸ばすために、
スタジアムで生み出す商品(質の高いゲーム、ファンやサポーターが作り出す雰囲気)の充実に
力を入れています。
そのために行われているのが、スタジアムの再開発への積極的な投資です。
収益性を考えなければいけないJリーグのクラブにも、ヒントになりますね。
おまけ
「デロイト・フットボール・マネー・リーグ」は数字だけでなく、
数字の分析まであるので読みものとしても面白いです。