「決算書を読む」ことは、会社の財務状況を分析するのに有効です。広く名の知られた会社の決算書を読むのも良いですが、ご自身の経営されている会社や、勤めていらっしゃる会社の決算書を読めると、役立つ度合いがグッと高まります。
決算書の第一の目的は、投資家に情報を提供すること
「決算書を読む」ことを考えるには、まず、決算書が何を伝える資料なのかを、明確に理解しておくことが大事です。
漠然と「会社のことが分かりそう」というイメージだけでは、いくつ財務指標を覚えたところで、そこから得られる情報は薄くなってしまうからです。
そこで、短い言葉で構わないので、まずは、目的をおさえます。
決算書には様々な目的があるのですが、上場企業を前提にすると、最も重視されているのが、
「投資家の投資判断に役立つ情報を提供すること」
になります。
より分かりやすく言うと、
「その会社の株を買うかどうか、を判断する資料」
ということです。
「決算書を読めるようになりたい」と考えた時は、難しい財務指標を覚える前に、
「決算書は投資家のために作られている」
という大きな前提をおさえます。
これが分かっていると、決算書を読むために必要とされる知識を習うときに、
「この指標が高くなると、投資家は株を買おうと思うんだな」
などと、具体的な”行動”をイメージすることができるからです。
この「誰が」「どうする」という、具体的なイメージがあるかないかで、決算書から得られる情報の濃度が変わってきます。
目的を理解したら、次は、「どのような視点を持つべきか」を考えます。
決算書から読み取れる情報はたくさんありますが、それを全て並べて会社を分析しても、結論はぼやけてしまいます。
得られる情報が多すぎて結論を下せない状態です。
それを克服するために必要なのが、「決算書のどこに注目するか」という”視点”です。
投資家の視点も様々 一律に投資判断がなされることはありません
「決算書のどこに注目するか」についても、先に触れた、決算書の目的がポイントになってきます。
決算書は投資家のために作られているのですから、決算書を最も詳しく見ているのも投資家です。
「決算書のどこに注目するか」という問いは、「投資家がどこに注目するか」と同じ意味を持つことが分かります。
では、投資家は決算書から、どのような情報を得ようとしているのかというと、これも先に触れたとおり、
「その会社の株を買うかどうか、を判断する材料」
です。
投資家が株を買うと判断するのは、
「会社の本当の価値 > 市場の株価」
になった時。
なぜなら、この時は、
「将来、株価は”会社の本当の価値”に近づくように値上がりする」
と予想されますから、
「会社の本当の価値 > 市場の株価」
になっているタイミングで買って、将来値上がりした時に売れば、利益を得られるからです。
ということは、投資家が決算書から得ようとする情報は、
「会社の本当の価値を知るための情報」
ということになります。
つまり、決算書を読むために注目すべき情報とは、
「会社の”本当の価値”を知るための情報」
ということになるのですが、
その、「会社の”本当の価値”を知るための情報」が何に当たるかについては、様々な答えがあります。
「売上」に着目するひともいれば、
「利益」に着目する人もいます。
「利益」の中でも、営業利益を見る人もいれば、「経常利益」を見る人もいます。
「利益」だけではダメで、
「投資額」と「利益」の関係にあたる「投資効率」を見る人もいますし、
さらには、「株価」まで織り込んだ、「株価」と「利益」の関係を
見る人もいます。
このように、何に着目して、「会社の価値」を測るか、ひいては、
「株を買うかどうかを判断するか」について、一律の答えはありません。
どれを正解とするかは、投資家自身が決めるのです。
決算書もそのことを想定しているからこそ、損益計算書上の利益を、複数公開していますし、貸借対照表の区分も細かく分かれています。
決算書を利用する投資家が使う情報が、多様だからこそ、それに応えられるように、決算書も多様な情報が提供されるような形になっているのです。
投資家が、「会社の価値を測定するための情報」を何にするかは、その人の価値観が反映します。
私たちが決算書を読む時にも、自分の価値観に従って、
「何が会社の価値を表しているか」について
「”最もしっくりくる”情報がどれか」を判断して、
注目すべき情報を決めれば良いのです。
そうした判断の下で、決算書を読み、情報を手に入れれば、
その情報には、自分の価値観が反映されていますから、
手に入れた情報にも確信を持つことができます。
情報を手に入れるのは、納得して投資判断をするため。
納得の度合いは、手にした情報への確信に強く影響されますから、自分の価値観を反映させた、確信できる情報をてにいれることに意味があるのです。
ご自身の会社の決算書を読む ポイントは、自分の会社の株を買いたくなるかどうか
決算書の目的(「投資家に向けた投資判断のための情報提供」)を手がかりに、決算書を読む際には
会社の価値を測るための情報に注目すること
そこには自分の価値観を反映させること、
の重要性を見てきました。
それを踏まえて、ご自身の会社の決算書を読む時のポイントを考えます。
端的に申し上げますと、
「ご自身の会社の株を買いたいかどうか」
の視点を持つことがポイントです。
ご自身の会社の決算書を読む、ことの意味は、
「将来に向けた経営方針を考える」
「今後の業務改善策を考える」
ために、決算書から得られる情報を生かすことにあります。
そのためには、これまでに見てきた、投資家としての視点で情報を見ていくことが大事です。
自社の決算書になると、「売上が上がった」「利益が下がった」などの分かりやすい数字の比較で、一喜一憂することが多いです。
ですが、これでは、もったいないです。
ここまで見てきた投資家の視点で、決算書を見直してみます。
会社の価値を測定するのに、「利益」こそが会社の価値の源泉であると考えているとしましょう。
利益が増えればもちろんいいですが、利益の中身が、持っていた株式を売却した結果で、本業からの利益ではないとしたらどうでしょう。
利益は一時的なもので、「本当の会社の価値」、「本当の会社の稼ぐ力」はそうでもないと判断するはずです。
そのような会社には、投資したいとは思わないでしょう。
そこからがスタートです。
自分の会社を、「投資したい」と思えるような会社に変えるように、改善策を考えて行きます。
ご自身で「株を買いたい」と思う会社が、
一定の利益率をもつ柱になる商品があり、
毎期、本業から安定した利益を見込める会社、
だったとします。
ご自身の会社の株を買おうと思えなかった原因が、
本業での利益が出せていないことにあったのですから、
これから本業で利益を出せる、柱になる商品を作り出すことを考えるのです。
従来の商品構成から、利益率の高い商品だけを残して、他の商品の取り扱いを中止。
残した商品について、改善できる箇所を徹底的に改善して、柱となる商品に育て上げる、など。
株を買いたいたくなるような、会社の決算書にするため、
改善策を、どんどん出していく。
このように、今後の具体的な方向性を見出すために、
ご自身の会社の決算書から情報を得るのが、有意義な決算書の読み方です。
ご自身が従業員でいらっしゃる場合も同様です。
ご自身の所属している部署で使われていないスペースや、長く売れ残っている在庫があったとします。
投資効率に注目して、「株を買うかどうかの判断をする」と決めて決算書を読まれたら、
「投資効率を上げるためには、余計な資産はなくすか、
利用して利益を上げるようにする必要がある」
「今まで売れなかった在庫は処分すれば良いし、
使ってないスペースは、利益を上げるためにどうにかして使うことを考えるべき」
など、具体的な改善案が思いつくはずです。
「自分がこの会社の株を買うかどうか」
を考えながら決算書を読むことで、
今後の具体的な業務の改善策が見えてきます。
このように、ご自身の会社の決算書を使うと、羅列された金額や、無味乾燥な財務指標にも、大きな意味を見いだせるでしょう。
まとめ
決算書を読むためには、投資家の視点を持つことが有用です。
ご自身の会社の決算書を読む際にも、「この会社の株を買いたいかどうか」の視点を持つことで、今後の経営方針や業務改善策に役立つ情報を得ることができます。
<おまけ>
寒さは相変わらずですが、夕方になると、
日が長くなってきたのがよく分かります。
春が近づいてきているのを感じられて、嬉しいですね。